関東大震災100年
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関東大震災100年

関東大震災100年シンポジウム 〜関東大震災から学ぶ今後の都市・インフラ整備〜

概要

日時:令和5年8月28日(月)14:00~17:30
場所:東京ビッグサイト国際会議場
主催/国土交通省 関東地方整備局
公表参加者数:約1,000名(来場者・約600名/オンライン視聴者・約400名)

プログラム

①主催者挨拶
 ▸斉藤鉄夫(国土交通大臣)

②基調講演1「関東大震災がつくった東京:100年後の変容と首都直下地震」
 ▸武村雅之氏(名古屋大学 特任教授)

③基調講演2「失敗しない首都直下地震対策に向かって」
 ▸河田惠昭氏(関西大学 特別任命教授)

④パネルディスカッション「関東大震災から学ぶ、今後の都市・インフラ整備」
【コーディネーター】
 ▸山﨑登氏(国士館大学 教授/元NHK解説委員)
【パネリスト】
 ▸加藤孝明氏(東京大学 教授)
 ▸久田嘉章氏(工学院大学 教授)
 ▸小室広佐子氏(東京国際大学 教授)
 ▸リチャード・クー氏(野村総合研究所)
 ▸谷崎馨一氏(東京都 都市整備局長)
 ▸吉岡幹夫(国土交通省 技監)

 今年、関東大震災(1923年9月1日)から100年を迎えた。これを機に、切迫する首都直下地震など巨大地震に備え、これからのまちづくりを考えるシンポジウム「関東大震災から学ぶ今後の都市・インフラ整備」(国土交通省主催)が開催された。8月28日、会場の東京ビッグサイト国際会議場(東京都江東区)には、各地からおよそ600人の聴衆が参加、熱心に耳を傾けた。さまざまな視点から巨大地震への備えに向けた意見が交わされた、基調講演やパネルディスカッションの概要を紹介する。

主催者挨拶

国土交通大臣 斉藤鉄夫

 本日は、多くの皆さまにご参加いただき、ありがとうございます。
 関東大震災は、100年前の1923年9月1日に発生、南関東から東海にかけて、倒壊や大規模火災など、約37万棟の家屋が被災、死者・行方不明者約10万5千人という明治以降、わが国最大の自然災害です。
 さまざまな制約や困難の中、帝都復興計画に基づいた復興が着実に進み、整備された近代的な公共施設やインフラは、現在の東京の街並みを形成しています。翌年には世界初の建築物の耐震基準が策定されました。
 国土交通省は、その後発生した多くの震災の教訓も踏まえ、さまざまな地震対策に取り組んでまいりました。政府全体としても、本年7月に定められた新たな国土強靭化基本計画の下、防災インフラの整備・管理を戦略的に推進し、引き続き、防災・減災の取り組みを着実に進めていきます。
 本シンポジウムが、関東大震災以降の取り組みや課題への理解を深め、迫り来る巨大地震への備えを考えていただく有意義な機会になるよう祈念いたします。

基調講演

関東大震災がつくった東京
100年後の変容と首都直下地震

名古屋大学 特任教授 武村雅之氏

 関東大震災(関東地震)は、神奈川県西部が震源地です。日本の自然災害史上最大、死者、被害総額は人口比、GDP比で東日本大震災の10倍に相当するという甚大なものでした。
 神奈川県全域が大きな被害を被りましたが、実は、被害の70%は震源地から離れた東京でのものです。ほとんどが火災によるもので、当時の東京が、いかに地震に弱い街であったかを物語っています。明治以降の無秩序なまちづくり、人口集中がその大きな理由です。
 震災後、市民は帝都復興事業に立ち上がります。区画整理が行われ、道路や橋が整備され、公園や学校が造られました。重要なのは「耐震・耐火を前提に、国民的合意の下で、公共性を第一に、首都として恥ずかしくない品格のある街にする」という理念の下、将来を見据えたまちづくりが行われたということです。
 戦後、経済成長とともに新たな課題も生まれ、東京は再び地震に弱い街になっていないでしょうか。関東大震災100年を、もう一度災害に強いまちづくりを考える「元年」にしたいと思います。

失敗しない 首都直下地震対策に向かって

関西大学 特別任命教授 河田惠昭氏

 「相転移」という言葉があります。本来熱力学などで使われ、例えば、水が1℃から0℃に下がると突然氷という固体になるように、ある要因で「相」が急変することを指す言葉です。
 災害時、何らかの要因で被害が急激に大きくなります。私はこれを「社会現象の相転移」と呼んでいます。言い換えれば、相転移する要因を取り除けば被害を抑えることができる、ということです。
 1995年の阪神・淡路大震災では、神戸市でおよそ4,000人が亡くなりました。密集した老朽木造住宅の全壊・倒壊という要因で災害が相転移を起こした一例です。逆に、2016年の熊本地震では前震時に住民の避難ができていたため相転移は起きず、本震での死者数は想定を大きく下回りました。
 例えば、首都直下地震が発生した場合、相転移の要因となる候補の一つに、長期広域停電が考えられます。それが情報通信災害などの複合(2次)災害、エレベーターの停止・閉じ込めなどの連続滝状災害につながり、被害は拡大します。
 巨大地震に備え、被害を最小限にするためにも、相転移の要因となるものを見極め、被害の構造を予測することが、急がれると思います。

パネルディスカッション

関東大震災から学ぶ今後の都市・インフラ整備

パネリスト:
東京大学教授 加藤孝明氏/工学院大学教授 久田嘉章氏/東京国際大学教授 小室広佐子氏/野村総合研究所 リチャード・クー氏/東京都都市整備局長 谷崎馨一氏/国土交通省技監 吉岡幹夫
コーディネーター:
国士館大学教授 元NHK解説委員 山﨑登氏

関東大震災の対応から学ぶ

山﨑私たちは関東大震災から何を学ぶべきか。基調講演で「現在の東京の基盤は関東大震災からの復興で築かれた」というお話がありました。まず、都市そしてインフラ整備という視点、大災害が経済に及ぼす影響も含め議論したいと思います。
谷崎関東大震災後の復興で、現在の東京の礎が築かれたことは間違いありません。当時の精神は今も引き継がれています。高幅員の幹線街路の整備など、災害に強いまちづくりと、景観を含め「風格のある都市」づくりを併せた取り組みなど、まさに、関東大震災の復興の理念に基づいたものです。
加藤関東大震災をきっかけに、建築・土木の新しい文化が生まれました。ただし、復興の対象にならなかった周辺地域には、火災などに対して脆弱な市街地が形成されてしまった、という反省点もあります。関東大震災、その後の戦災からの復興に付随してつくられたこれらのエリアが抱えるリスクをどう考えるか、とても大きなテーマです。
久田関東大震災を教訓に建築物の耐震基準の整備など災害に備える仕組みや技術は大きく進歩しています。復興時においては、半壊した建物などを「壊してつくる」という従来の方法は、関東大震災級の災害では不可能です。質の良い建物を建て、修復あるいは機能アップして使い続けるための準備が必要だと思います。
小室関東大震災では、国、自治体、軍、赤十字などが情報が少ないまま現地入りして十分な活動ができませんでした。令和5年、防災基本計画に「災害中間支援組織」の育成・強化などが盛り込まれました。NPO、ボランティアなどが効率よく動ける仕組み、つまりソフト面のインフラ整備が重要です。
クー関東大震災の被害総額はGDP比37%。サプライチェーンで世界がつながっている今、この規模の災害が起これば、経済面での影響は日本だけに止まりません。どれだけ早く復興できるか、そして、さまざまなことがオンライン化された現在、そのシステムをダウンさせない準備が緊急の課題です。
吉岡関東大震災後、国は大きく二つのことに取り組んできました。一つは建物を地震に強くすること。これは耐震基準の整備につながりました。もう一つは、施設や都市空間の配置や間隔まで考えた、火災に強いまちづくりです。いくつもの災害を乗り越えながら、進化させてきたこの取り組みを継続していくことが、今後の地震対策の大切なベースになると考えます。

関東大震災後の災害対策

山﨑関東大震災後、どのような災害対策が取り組まれてきたのでしょうか。世界のマグニチュード6以上の地震の2割を占める地震大国日本。ソフト、ハードとも大きく変化する中、これからの災害対策を考えます。
吉岡国として、常に耐震基準を見直しながら、建物やインフラの耐震対策などを進めてきました。「八方向作戦」と呼ばれる道路啓開計画も耐震化された橋や道路が前提です。政府の初動体制の整備、テックフォースなどによる広域的な支援体制の確立なども、国の大切な役割だと思っています。
谷崎東京都は、1996(平成8)年「防災都市づくり推進計画」を策定、安全で良質な市街地を形成するため、特定緊急輸送道路沿道建築物をはじめとした耐震化、そして、「木密地域不燃化10年プロジェクト」を立ち上げ、燃え広がらない・燃えないまちづくりに取り組んでいます。
久田技術の進歩で、例えば超高層ビルの倒壊は最悪条件が重ならない限りまずありません。ただし、火災、壁やエレベーターが破損し、閉じ込められてしまうことは起きえます。そんなときのための自助、共助の仕組みを整えておくことで、被害を限りなく減らせるのではないかと思います。
クーハード面を見ると、さまざまな震災を経験してきた日本の災害対策は進んでいます。私は、「9・11同時多発テロ」を経験しました。貿易センタービルからの避難時、アメリカ政府の対応は、とても臨機応変で効果的でした。今後求められるのは、固定観念にとらわれない活動を支える、災害対策のソフト面での充実だと思います。
小室関東大震災時、特定の人などをスケープゴートにする「流言」が大きな問題になりました。情報通信網が進歩した現代、それは比較にならないほど速く、広く拡散します。一方で、速度・量が増した分、通信施設は繊細になりました。情報依存度が高い今だからこそ、災害時、情報機能をどう守り、コントロールするのか、考えておかなければなりません。
加藤ハードな面に限れば、明らかに災害対策は進んでいます。しかし、社会が高度化、複雑化し、災害も姿を変えています。それに私たちはどう追いついていけばいいのか。火を扱う機会が減るなど、人間の対応力も変わる中で、時代とともに変化する災害に合わせ、その対策を成長させていく必要性を痛感しています。

現在の状況と新たな課題

山﨑100年前とはあらゆる面で状況が激変する中、災害に対する新たな課題も生まれています。
加藤一見ピンチに見える高齢化社会ですが、お年寄りの中には元気な方も多く、地域の中に、元気な方が増えるということでもあります。元ホワイトカラーの方など、コミュニティーの担い手も多彩になりました。今後は、その潜在力を生かした防災対策が求められます。
久田超高層マンションなどでは、ソフト面での防災対策が大切です。防災訓練をどうするか、防災のための設備や道具の所在は周知されているのか…。住民同士が連携し、自助・共助のシステムを早急につくり上げていかなくてはなりません。
小室帰宅困難者の問題も新たな課題です。公が提供する受け入れスペースだけでは限界があり、やはり、民間の商業施設などの協力が不可欠です。現在も意識の高い企業などが名乗りを上げていますが、これをさらに推し進めるために、税制面での優遇などで背中を押すことも必要だと思います。
クーサプライチェーンをストップさせない、あるいは早急に復旧させるためには、企業内での危機管理のシステムが必要です。そのコストをどう受け入れるのか、また、システムを実際に動かしていく人材をどうするのか、準備しておかなくてはなりません。これは、国に対しても言えることですが、前例にとらわれない、強力なリーダーシップが求められます。
山﨑きちんとした準備なくしてうまくいった防災対策はありません。最後にまとめをお願いいたします。
谷崎東京都は、昨年12月「TOKYO強靭化プロジェクト」を立ち上げ、地震をはじめ風水害など五つの危機を対象に、さまざまな災害に強い都市づくりを進めていきます。加えて、自助・共助・公助が三位一体で機能することが肝要で、国立映画アーカイブや東京都復興記念館などと協力し「復興デジタルアーカイブ」を作成するなど、防災へのPRも進めているところです。
吉岡普段活動されているところの災害リスクを一人一人がしっかり把握し、そのための準備をお願いしたいと思います。そして、防災訓練などのソフト面、防災グッズなどの備蓄、施設のメンテナンスなども必要だと思います。首都直下地震は、東京だけの問題として捉えず、東京が果たす役割を考えながら、国全体で考えていく必要があると思います。
山﨑本日は、長時間ありがとうございました。

国士館大学 教授/元NHK解説委員
(コーディネーター)山﨑登氏

東京大学 教授
加藤孝明氏

工学院大学 教授
久田嘉章氏

東京国際大学 教授
小室広佐子氏

野村総合研究所
リチャード・クー氏

東京都 都市整備局長
谷崎馨一氏

国土交通省 技監
吉岡幹夫

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齊藤鉄夫 国土交通大臣

武村雅之氏

河田惠昭氏

パネルディスカッション

パネル展示1

パネル展示2

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