文部科学省では、企業の社会貢献を通じた青少年の体験活動を推進しており、平成27年度「青少年の体験活動推進企業表彰」の表彰式を3月9日、文部科学省第一講堂(東京都千代田区)にて開催した。表彰式の後、受賞企業の事例発表、シンポジウム「青少年の体験活動を充実させるために企業の果たす役割とは」を開催し、パネルディスカッションを行った。

主  催
文部科学省
開催日時
2016年3月9日(水) 表彰式:13:30~14:10 シンポジウム:14:25~17:00
会  場
文部科学省(3階)第一講堂 東京都千代田区霞が関三丁目2番2号
プログラム

主催者挨拶

義家弘介 文部科学副大臣

義家弘介 文部科学副大臣

義家弘介 文部科学副大臣

 受賞された皆様、誠におめでとうございます。心よりお祝いを申し上げます。そして心より感謝を申し上げます。文部科学省では平成25年度より企業がCSRや社会貢献活動として取り組んでいる青少年の体験活動を表彰し、全国に広く紹介することによって、青少年の健全育成を推進しております。子供たちの生きる力は学校だけで育まれるものではなく、家庭における教育はもちろん、多様な人びとと関わり、多様な経験を積み重ねていくことで育まれます。
 地域社会とのつながりや信頼できる大人との関わりを通して、子供たちは心豊かにたくましく成長していくのです。文部科学省としては、希薄化が指摘されている体験活動は、人づくりの原点と位置付け、未来の社会を担う全ての子供たちに体験活動の機会を意図的・計画的に創造することが重要であると考えております。そして、その実現のためには、子供を取り巻く家庭・学校・地域、さらに企業等が積極的に連携しながら意義ある体験活動を子供たちに提供していくことがなにより期待されております。
 このシンポジウムを契機として、青少年の体験活動の重要性について改めて共に認識すると共に、企業が青少年の教育に取り組む意味や地域との連携の意義について改めてご理解を深めていただき、今後更なる協働を皆様の側からも促進していただくことを心より期待しております。
 本日お集まりの皆様に置かれましては、今後更に子供たちの健やかな成長を促すような取組を実践され、引き続き青少年の健全育成にご尽力賜りますよう心からお願い申し上げ、挨拶とさせていただきます。

審査委員講評

明石 要一氏

明石 要一氏

明石 要一氏
(平成27年度青少年の体験活動推進企業表彰審査委員・千葉敬愛短期大学学長)

 今回どのような視点で審査をしたのか、私の感想を含めて講評させていただく。本事業を主催している文部科学省 生涯学習政策局 青少年教育課では、社会教育分野でも体験活動を推進するための取組を進めており、本表彰事業は今回で3年目となる。今年度は全国より大企業63件、中小企業59件、合計122件、115企業の取組の応募があった。体験活動の事例については、事例集という形で配布している。
 審査のポイントは5つである。①教育的な工夫はあったのか。成果をどの程度期待したのか。②本業の活用があったか。企業の活動であるからボランティアでは長続きしないので、本業を活かし、どのような形で社会に貢献しているか。③内容と進行管理。④社会にどのように情報発信しているのか。⑤活動を社内で情報共有しているか、一部の部署だけが頑張っていては駄目である。という視点で審査を行った。
 今回は大企業と中小企業とを分け審査を行った。大企業ではパナソニック株式会社の『映像制作支援プログラム 「キッド・ウィットネス・ニュース(KWN)」』が選ばれたが、上記5項目について全審査員の点数がトップであった。全体的に目配りができており、例えば、正解のない映像制作という課題に取り組む中で、半年間かけて5分間の映像をつくることや、指導者向けの講習会や海外との交流を行っていることが高く評価された。
 中小企業部門では、株式会社金沢大地「コープ農園 大豆・味噌づくりコース」が受賞した。大豆と味噌をつくる過程を一貫して行っていること、地域と密着して活動を行っていることが非常に高く評価された。審査委員会特別賞・奨励賞については審査の得点順に決定した。
 特別賞と奨励賞は取り組みにほとんど差がなく、体験活動の意義をよく理解している、密度の濃い実践報告であった。文部科学大臣賞を受賞した取り組み以外は、再エントリーすることができるので、是非、来年度も引き続きご応募いただければと思う。

受賞者事例発表

竹安 聡氏

竹安 聡氏

文部科学大臣賞受賞企業 大企業部門 竹安 聡氏(パナソニック株式会社 役員)

 弊社は、あらゆる経営活動の基本となる当社の経営理念の根幹として「産業人たるの本分に徹し 社会生活の改善と向上を図り 世界文化の進展に寄与せんことを期す」を掲げており、これが企業市民活動のベースとなっている。
 次世代育成支援は企業が取り組むべき重要課題と考えており、出前授業、教材提供、教育助成制度等を行っている。そのひとつであるKWNは、1989年にアメリカで始まった。パナソニックの機材等を提供し、映像制作を通じて子供たちの創造性やコミュニケーション能力を高め、チームワークを養うこと、グローバルに他の国の子供たちと交流することを目的として行われており、年間1万人以上の子供たちが参加している。プログラムは国・地域ごとに運営されており、各地で優秀作品が選ばれ、小学生/中・高校生部門でコンテストが行われる。
 プログラムとしては、まず子供たちが何を撮影するかを考え、テーマに応じた取材を行う。どのような映像が必要か絵コンテを作り、実際にカメラで撮影を行う。パナソニックの機材を提供するだけではなく、撮り方や編集の仕方などの指導も行っている。撮影した映像をパソコンで編集し、作品に仕上げる。編集が終わったら内容の確認・上映会という流れである。1つの作品のためにみんなが考え、決定し、それぞれの役割を果たす。みんなで協力してやり遂げる楽しさを子供たちは感じているのではないかと思う。
 想像力・表現力を養うことができるだけではなく、国際交流活動を通じての体験も効果的である。プログラムに対して、指導にあたった先生方からは、子供たちに自信を与えてくれた、チームワークができた等の感想をいただいている。
 この活動を支えるために、2つの活動も別途行っている。1つ目は撮影の時の基本ステップを学んでもらう映像制作ワークショップで、プロの脚本家・カメラマン・編集者を派遣している。2つ目は指導者向けの研修会で、機材の使い方、編集の仕方、コツ、スキルアップを図る。受賞経験のある先生の体験談講座等のサポート体制により、映像制作を体験していただいている。
 映像制作を通じて、子供たちに考える力、想像する力、生きていく力を養う為に、引き続き活動を行っていきたい。
井村 辰二郎氏

井村 辰二郎氏

文部科学大臣賞受賞企業 中小企業部門 井村 辰二郎氏(株式会社金沢大地 代表取締役)

 弊社は地域循環型の農業を目指し、耕作放棄地を中心に有機農業を行っている。今回の活動の実施により、地元の食や旬、生物の多様性、有機農業を身近に感じられる学びの機会の創出や、企業理念として掲げている作り手と食べる人との関係を身近にしたいという「双方向トレーサビリティ」が可能となる。
 一年間にわたって親子で食育活動に関わってもらいたいとの思いから、大豆を植え、収穫し、冬に味噌を作り、家に持って帰ってもらうという活動を行っている。体験活動は自分たちで考えること、講義等により有機農業について知ってもらうこと、また活動を通じて生物の多様性を考えてもらうことを目的としている。
 参加者からは、日頃食べない納豆を食べてくれた、食卓で大豆はどこでとれたのかという会話が生まれた、遊びを自然のなかで体験できる等の感想をいただいている。
 この活動を通じてどんな人が作っているのか、どういう想いで食べているかをお互いに知ることができ、非常に有意義であったと思う。また、コープいしかわと金沢大学教授との協力で、自宅学習用のリーフレットを作成し、大豆作り・農業について再度考えてもらう機会を作っている。
 地方都市である金沢でも農業をする人が少なくなっている。明石先生の講評で本業を活用すると良いという話があったが、このような活動を続けることで消費者が農業に目を向けることになり、農業は1000年続く産業になるのではないかと思う。今後もこの活動をつなげていきたい。

パネルディスカッションのための基調講演

笹谷 秀光氏

笹谷 秀光氏

「本業を活用した企業の教育貢献活動と関係者連携の在り方について」
笹谷 秀光氏(株式会社伊藤園常務執行役員CSR推進部長・
       平成27年度青少年の体験活動推進企業表彰審査委員)

 最近相次いだユネスコの文化遺産登録や文化庁認定による日本遺産などは持続可能性と次世代につなぐレガシー(遺産)創造の点で重要だ。この価値観をよく理解して、アウトバウンドのみならずインバウンドでも、著しく進化するICTも活用して、日本の良いものをクールジャパンとして発信し2020年東京五輪・パラリンピックという機会も生かす必要がある。この「新グローバル時代」には、関係者が連携・協働して新たな価値を創造していく、「協創力」が重要である。
 地域社会が一丸となった青少年教育の面でも、今改めて企業の社会的責任(CSR)の強化が必要である。その「羅針盤」として、国際標準「社会的責任に関する手引」(注)も活用する。これによれば、企業は本業を活用して、人権・環境・消費者・コミュニティ課題などに全体的に取り組み、社会・環境の持続可能性に貢献していく社会対応力としてCSRが求められる。
 企業には、社会的価値と経済的価値の同時実現を目指す「共有価値の創造」戦略も重要。これを考えるに、日本の伝統的な言葉として自分よし・相手よし・世間よしという「三方よし」がある。これに“学び”を加え、「自分も学ぶ、相手も学ぶ、そして地域の学びを入れる」ということによって、三方よしの構造を強固にできる。ただし、ともに心得としてある「陰徳善事」が課題だ。分かる人には分かるという意味だがグローバルには通用しないので、的確に自分の考えを発信する「発信型三方よし」にする必要がある。
 企業の価値創造力を青少年の「生き抜く力」の育成にどう活かしていくか。文部科学省の資料では、今の青少年には、心や身体を鍛え、本物を見るための体験活動が必須である一方、体験機会の格差是正という課題提起がなされている。また、子供のころの体験活動が豊富な大人ほど、意欲・関心や規範意識が高いというデータもある。
 だから企業も含め、関係者が連携して体験機会を創出する必要がある。企業が社会教育として参画するには、本業を活かすことが最も効果的で、継続性も生まれる。「本業を通じて」「本業に関連して」行うほか、「本業スキルやアセットの活用」として社員の能力、工場や自社施設を使うことが有効。企業が本業を体験活動の中で使うと、専門ノウハウの伝達、場の提供、企業の想いを伝える等が可能となる。企業が教育面でのCSR活動を行う「教育CSR」により、企業の社会的評価の高まりや共有価値創造につながることが重要な要素である。教育CSRでは「いいね」という共感、「なるほど」という理解、「またね」という継続がポイントで、これに今回の表彰などで「さすが」という評価がついてくれば好循環が生まれる。
 また、地方創生の観点からも人づくりは喫緊の課題だ。「産官学金労言」(産業界、行政、教育界、金融界、労働界、メディア/言論界)にNPOも加えて、グローバル化も見据えたネットワークづくりための活動の共通基盤、プラットフォームをつくっていく必要があるのではないかと思う。

(注)ISO26000

パネルディスカッション
「青少年の体験活動を充実させるために企業の果たす役割とは~地域連携による教育CSR推進に向けて~」

 企業の価値創造力を生かした多様な体験活動 地域連携で青少年の「生き抜く力」を

パネルディスカッション
〈パネリスト〉
明石 要一氏(千葉敬愛短期大学学長・
       平成27年度青少年の体験活動推進企業表彰審査委員)
青山 貴子氏(山梨学院大学准教授)
甫仮 直樹氏(新潟県上越市立大手町小学校教諭)
箕輪 優子氏(横河電機株式会社CSR部CSR課)
古波倉 正信氏(株式会社琉球新報社営業局広告部副部長)

〈モデレーター〉
笹谷 秀光氏
笹谷:
 このパネルディスカッションでは、先ほど基調講演でお示しした、なぜ体験活動が重要か、企業による教育貢献・本業活用の教育CSR、教育関係者と企業の連携の在り方という3つの論点から意見交換していきたい。まず、なぜ体験活動が重要かについて明石氏から順に発言頂きたい。

体験格差の是正に企業の力を

明石:
 子供の頃に多くの体験活動に参加した人ほど学歴が高く、収入が高く、良い家庭が築けている、15歳までの年中行事の体験が多い人ほど良い高校に進学しているという調査結果がある。また、青少年期の体験が成人後にも大きく影響するという調査結果もある。しかし、現状としては体験格差が起こっており、企業の積極的なプログラムの提供が必要ではないか。

甫仮 直樹氏

甫仮 直樹氏

甫仮:
 体験活動を通じて子供たちに多様な視点や様々な見方・考え方を持って欲しいと考えている。自ら考え主体的に動き、仲間と協力・協働して問題を解決することができる子供を育成したいと考えている。そのために生活科や総合学習を中心とした体験活動は重要である。また、体験活動と合わせて言語活動も重要と考えており、振り返りの活動を行っている。自分で学びを意味付け、自分自身の頑張りに気づくことも重要ではないか。

箕輪:
 横河電機では、障害のある子供たちを対象とした体験活動を行っているが、参加した子供も大人も笑顔になれる活動だと思っている。例えば、車いすを使用している子供たちやその家族が、一生体験できないと思っていた登山を、地域資源の1つである企業が関わることで実現し、達成感を味わっていただけたことは、キャリア教育の観点からも、非常に有意義であると感じている。

青山:
 国立教育政策研究所が企業を対象に行った調査では、体験活動を行う目的として、地域社会や教育現場からの要望に応えるため、次世代を育成したい、地域との交流等が多く見られた。
 

「自社らしさ」で効果的な体験機会を生み出す

笹谷 秀光氏

笹谷 秀光氏

笹谷:
 甫仮氏のいう言語活動や「気づき」というのもポイントで、これは「持続可能な開発のための教育」、ESD(エデュケーション・フォー・サステナブル・デベロップメント)という手法がそのままズバリ適用されている。また、体験格差の是正に企業の力を生かせというご意見だと思う。教育貢献、本業活用の教育CSRという角度から見て、企業でのご自身の活動を踏まえ、箕輪氏、古波倉氏からご意見をいただきたい。

箕輪:
 弊社はご家庭でお使いいただく製品やサービスを取り扱ってはいないので、製品を活用した子供向けの体験プログラムを実施することは難しいが、本業に関連して社員が持っているスキルを活かした理科教室や、社員の趣味や特技を活かした障害のある子供たちを対象とした授業や余暇活動を支援している。社内同好会に所属する社員たちが中心となり組織的に対応していること、何よりも自分達の趣味や特技が活かせるという点が7年間継続している秘訣だと思う。

古波倉:
 本業の活用としては、紙面・Webを使った情報発信を行っている。またFacebook等も用い多面的発信を行っている。NIE(教育に新聞を)という流れの中で、多くの新聞社で子供記者等の活動が行われている。今回受賞したサイエンスクラブは、企業・団体等をつないで児童生徒の研究を手助けする事業を継続することが評価されたのではないかと思っている。自然に対して興味が増した、新聞を見た人からの連絡があった等、本業を使って子供たちの活動を支援できたのではないか。

笹谷:
 横河電機は社員のスキルを生かし、琉球新報はメディアの発信性という本業の強みを生かしている。「自社らしさ」というのがポイントだと思うが、今回の受賞事例も含め、本業活用の意義について明石氏から分析を、青山氏から教育関係者と企業の連携の在り方についてアンケートを行った調査結果の説明をお願いしたい。

明石 要一氏

明石 要一氏

明石:
 横河電機は同好会のメンバーが中心となり組織的に取り組んでいるところに特徴があり、また東京都の教育委員会や武蔵野市の教育委員会とうまく連携し、スキルアップしていったのだと思う。また、琉球新報社はなぜ新聞社が科学?と思ったが、“子供たちの科学の目を育てたい”というミッションがあり、新聞を使いそれを上手く広報していると思う。
 同じように静岡放送・静岡新聞は、地元でふじさんクラブを作り、子供たちに富士山の良さを違う角度で見直している。また、モンテディオ山形は、今の子供たちは夢がなく、良いモデルがないので、Jリーガーの方達とサッカーだけではなく夢を語ることで、子供たちに夢を与えていると感じた。また、ユニクロは、不要となった服を送るだけではなく、どう送るかを考えて社会貢献をしている。森ビルはまちづくりの専門の会社だが、六本木ヒルズ全体の街育という形でどうやって街を作っていけばよいかという学びの場を提供している。
 1つのことに限定せず、生活体験・自然体験・社会体験等のバランスを考えながら、本業の特徴と他がやっていないことを目指すと素晴らしいものになる。そこに着眼点をおき、頑張って欲しい。
 例えば、「木育」という形で新規事項を出していく等、学校にりんごとみかんを植える等は非常に新しい例だと感じた。

青山:
 調査結果を見ると、学校での授業支援が多くなっているが、もっと多様な体験活動があっても良いと思う。また、企業の特色をいかしたものづくり・サイエンス体験が増えていることが分かる。自社らしさについてはかなりばらつきがあり、自社の技術・製品・人材を活かす、企業理念に関する内容を盛り込むという回答が増えているものの、内容は多様であり、各企業が自社らしさを求めて工夫している事がわかる。

笹谷:
 企業がCSR活動の一環として本業活用で教育面に貢献する「教育CSR」が進むと、継続性ある効果的な活動につながる。青山氏の調査データからも、本業について、スキルをうまく使う、自社の製品を生かす、自社の施設を生かす、人材を生かす、企業の理念と関連付けるなどの点が重要であることが裏付けられた。本業の強みを生かした「企業らしさ」がポイントだとの分析である。これに関連して、次の論点の教育関係者と企業の連携の在り方についても青山氏から調査結果を踏まえご意見いただきたい。

連携で生まれる革新と価値創造

青山:
 企業との連携は、イノベーティブという視点から見ると、似たもの同士の連携よりもむしろ共通項がない組織や今までにつながりがない団体との連携の方が、新しい価値を生み出す可能性を秘めている。学校との連携ももちろん大事だが、今後自社らしさを求める中で、社会教育系の団体や組織・NPOとの協働の中で、どういった点で共通的な価値が見いだせるのか、やりたいCSR活動ができるのかということを検討していただければと思う。

明石:
 アンケートの結果を見ると、連携の課題を感じていない企業が多い。また、課題としては、連携の際に同等の立場に立てない、共通の目的を持つのが難しい、共通の評価設定ができないことが挙がっている。課題が見えているところは連携先との共通の方向性を探せるとうまくいくのではないか。

青山 貴子氏

青山 貴子氏

青山:
 次なる展開としては、先ほどの講演でも紹介されたCSV(共有価値の創造)ということになるのではないかと思う。要は関係者が同じ方向を向いていかに持続可能に事業と結び付けながら活動していくかが重要だ。

笹谷:
 青山氏がいうCSVというのは、企業がCSRをベースに据えたうえで関係者の連携による「共有価値の創造」を目指すという企業戦略として、今注目されている考えだ。体験活動を通じて「三方よし」構造、つまり、ウインウイン関係をつくっていくのが企業に求められる重要な戦略的視点であると思う。実際に活動してこられた箕輪氏、古波倉氏はどうか。

箕輪:
 連携先の候補となるNPO法人やNGO法人が多数あり、特徴も類似しているため、社会貢献活動の連携先を決めるにあたっては、他企業のCSR担当者と情報を共有している。弊社で行っている理科教室の場合、参加者の募集については直接学校とのやりとりを行っているが、校長先生が変わると対応が変わってしまう。都立の特別支援学校の在校生を対象とした、社員が多数所属している「東京武蔵野シティフットボールクラブ」のホームゲームへのご招待などについては学校長会の事務局校から一斉に配信していただくことができ、事務局校が交代しても協力してくださる姿勢は変わらない。また、都内の地域ブロックごとの幹事校に協力を要請すると、ニーズ調査やイベントの案内配信にも応じていただける。個人との連携ではなく組織対組織で連携していることで活動を持続できていると感じている。

古波倉:
 サイエンスクラブを始めた際は熱意のある先生に協力いただいたが、その方が異動してしまうと、活動が途切れてしまう懸念があった。そこで、県内の理科教育協会に入り、直接やりとりを行うことで関係を継続ができた。始まりは熱意のある人でも、そこから組織につなげていくことが必要だと思う。

笹谷:
 現在のCSRは本業活用で社会・環境課題に網羅的に取り組んでいるが、CSR課題の視点から見ると、横河電機の活動は人権、コミュニティ、規範意識、キャリア課題での教育側面が含まれており、これらが関連して複合的な活動となっているところに特徴がある。琉球新報社の活動も沖縄の地域密着のコミュニティ教育になると思う。実際に学校で活動している甫仮氏からご意見をいただきたい。

甫仮:
 本物の「ヒト・モノ・コト」に触れるのは非常に重要だと感じた。大手町小学校では豚を育てる活動を行ったが、その中で児童が様々な人が関わっていることを知り、見方が変わったと言っていた。活動を通して様々な企業や様々な人と関わることにより、子供たちの見方や考え方が変わるという点が重要ではないか。

明石:
 体験活動を行うには、様々な関係者の協力が必要である。校長や担当教員が変わると、できなくなる場合があるので、地域との連携が必要だと思う。

甫仮:
 連携については大手町小学校では、担当の教員はおらず、教頭を中心にそれぞれの担当が連携を取っている。様々な人が加わり、地域と連携するようになると、連携担当の教員を置くようにしている。企業でも専門の方がいると連携が取りやすいと思う。

笹谷:
 連携については、地方創生で言われている「産官学金労言」、つまり、産業界・行政・教育界に加え、金融界・労働界・メディアが重要だ。これに私はNPOも加えたい。皆様のお話から、これらの関係者が、対等な気持ちを持つことが重要。そのためにはお互いの立場を分かり、主体的に参加し、イノベーティブに共通価値創造をめざし、オープンな雰囲気で連携を目指す。これに加え、発信もポイントになるということが浮き彫りになったかと思う。

「三方よし」の体験活動で次世代人材を育成

笹谷:
 今後、学校と地域の連携ネットワーク作りにより、グローバルな展開や、地方でもインバウンド、クールジャパン、そしてレガシーの創造にもつなげることができる。地方創生でも皆様が参画できる機会が増えてくると思う。今までの話を踏まえ、各位からまとめのコメントをいただきたい。

青山:
 教育CSRで重要なのは、教育界と産業界が既にあるものをギブアンドテイクすることだけではなく、共にゼロから作り上げていくことである。そこではまず、子供・若者を主軸に置いて考えていくことが重要だ。子供たちを取り巻く教育環境を俯瞰的に見て、どのようにコミットできるかを考えることでお互い連携がしやすくなり、“自分も相手も世間も嬉しい”という三方良しの好循環につながっていくのではないか。

甫仮:
 子供たちにとって体験活動は非常に重要。様々な学びの中で子供たちが体験から自分たちで学びを作っていく。体験だけではなく言語活動という形で内省する機会も設けることで、自分の成長を考える機会になり、学びを深めることにつながると思う。
 学校側は企業の取り組みをあまり知らない。今回のシンポジウムで、本当にたくさんの企業が子供たちの学びのために様々な活動をしていることを知ることが出来た。学校に持ち帰り、このことを広げていきたい。

箕輪 優子氏

箕輪 優子氏

箕輪:
 障害のある子供が体験活動に気軽に参加できるチャンスが少ないことが問題であると考えている。障害のある子供を対象とした体験活動を実施するには専門知識や経験が必要だという固定観念により、実施できないと考える企業も少なくないようだ。実際に体験活動を行っている社員も、参加者の障害について特別詳しいわけではないが、必要があれば保護者や特別支援学校の教員がサポートしていただける体制になっている。「障害に詳しくないからこそ、子供たちの限界を決めつけることなく可能性を信じて接することで、子供たちの主体性が引き出されている。子供たちは、日頃は決まった大人とだけ関わっているが、地域社会に出たときに困らないためにも、初めて会う大人たちとともに成功体験を積む機会をつくることは重要」と、保護者や教員から本活動の励みになる言葉をいただいている。企業は人を育てるプロの集団であり、どの企業にも、仕事で培った様々な特殊技能だけでなく地域で活かせる趣味や特技を持っている社員も多いはず。笹谷様の「社員も“本業”の一部」というお話しをうけ、社員のスキル、趣味、特技を活かした社会貢献活動を今後も継続していきたい。もし、どのような社会貢献活動を実施していくか迷っている方は、是非声をかけていただいて、よろしければ一度、私共の活動に一緒に参加していただきたい。企業として、障害のある子供たちも一緒に育てていきたいと思う。

古波倉 正信氏

古波倉 正信氏

古波倉:
 新聞社の強みとして、取材力・発信力があり、沖縄美ら島財団は研究・助成事業に長けており、それを合わせてサイエンスクラブの活動を行ってきた。地方紙は全国にあるので活用してもらえればと思う。発信力だけではなく、各地元に詳しいのでそのネットワークを活かして企業のCSRに貢献できるのではないかと思う。是非連携先の候補としてご検討いただきたい。

笹谷:
 本表彰制度は関係者の連携に向けてのCSR責任者・担当者などのご努力に報いる効果もある。3年目を迎え中小企業部門も設けるなど充実が図られてきた。この表彰制度・シンポジウムそのものも情報発信力も強く、これ自体が優良事例を発信する活動の共通基盤、プラットフォームだと思うが、それも踏まえて明石氏にまとめをいただきたい。

明石:
 現在体験活動の格差が広がっていると感じている。大学と企業が力を合わせて、学校でできる生活文化体験活動をやってほしいと思う。また、今回中小企業の応募が多かったが、社会的に見ても中小企業の数が多いので、今日の金沢大地の事例のようなストーリーをもった活動をするという点、親子で体験するという点を参考にして活動を行って欲しいと思う。現代の子供は両親以外の大人を知る機会が減っているので、第三の大人を知る機会を提供できるのではないかと思う。今回表彰されたことは良い宣伝になると思うので、是非地元に持ち帰って学校と連携した活動を行ってほしい。

笹谷:
 皆様のご意見を総合すると、キーワードは多様な体験をしていくこと、地域との関わりを大事にするということ。企業が参画することにより、体験格差の是正につながれば良いと思う。地方創生の中でも“ひと”づくりは重要な課題であり、企業が次世代の人材育成に関わることが企業の価値を高め、共有価値創造につながる。また、活動をストーリー立てて的確に発信をしていくなかで新たにこういうことをやってほしいという話につながり、イノベーションにつながると思う。人と人とのつながりで、活動の「地理的広がり」、継続性がある「時間的広がり」、そして、「情報的広がり」が重要になってくるのではないかと思う。本日の各位からの学びと気づきを会場の皆様とも共有して、是非引き続き青少年の体験活動を推進していただきたい。

主催:文部科学省
(生涯学習政策局青少年教育課)

平成28年5月以降は文部科学省のHPに掲載されます

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